JCBが全国の加盟店デスクに導入。43%の自動化により月間約500時間を創出した、失敗しないAI対話プロジェクト
クレジットカード大手のJCBは、約2,000席という大規模なコールセンターを運営しています。その土台となる電話の仕組み(電話基盤)を全面的に入れ替える計画が進む中、同社はあるジレンマを抱えていました。大がかりな入れ替えの間は新しい挑戦がしづらく、何もしなければ、完了までの2年間、AIにまったく触れないまま電話対応を続けることになるのです。オペレーターの採用や育成が年々難しくなる中、ただ待ってはいられない。そう考えたジェーシービーは、個人情報を扱わない「加盟店デスク」(JCBカードが使えるお店からの問い合わせ窓口)を舞台に、AIによる電話対応を小さく始めることを決めます。
導入したのは、対話AIプラットフォーム「アイブリー」。システム部門とビジネス部門が一体となり、約4,000件のテスト通話でAIを育て上げた結果、電話の43%はAIだけで解決できるようになり、月におよそ500時間分の人の対応を置きかえるまでになりました。カード会社という、間違いの許されない情報を扱う現場で、いかに社内の壁を越え、AIを「育てて」いったのか。
本記事では、株式会社ジェーシービー システム本部 部長の福山さん、同 システム本部 システム企画部 戦略グループ 次長の寺澤さん、同 コミュニケーション推進部ミドルG 副主事の岡田さんが語った、失敗しないAI対話プロジェクトの進め方を紹介します。
アイブリー導入の成果サマリー
- 課題とAI導入の決断:JCBはコールセンターの人員不足に直面する中、電話基盤刷新に伴う2年間の技術的空白を避けるため、個人情報を扱わない加盟店デスクへ対話AIプラットフォーム「アイブリー」の導入を決断。
- 協創のプロセスと成果:システムとビジネスの両部門が一体となり、現場で約4,000件の架電テストと地道なチューニングを重ねてAIを育成。その結果、自動化率43%を達成し、全国展開を通じて月間約500時間の業務時間を創出することに成功。
電話基盤刷新の2年間、AIに触れずに待てない
JCBでは、約2,000席のコールセンターを支える電話基盤の刷新が走り出していました。しかし、大規模な基盤更改が進行している間は、どうしても新たな挑戦がしづらくなってしまいます。もし何もしなければ、刷新が完了するまでの2年間、AIに一切触れないままコールセンターを運営し続けることになります。
その一方で、オペレーターの採用難や育成の壁、さらにはオペレーターという職種を若い人たちが選ばなくなってきているなど、人員の課題は待ったなしの状況でした。だからこそ、前倒しで取り組めることを探したい。そう考えたJCBは、AIオペレーターに賭ける決断を下します。
とはいえ、カード会社は電話口で機微な個人情報を扱うため、生成AIとの相性は決して良いとは言えません。厳格なコンプライアンス部門の壁を突破できる確信は、まだ持てずにいました。
最初の一歩を「効果が期待できる場所」に絞る
そこでJCBが最初の対象に選んだのが、加盟店向けのデスクでした。JCBカードで支払いができるお店からの問い合わせ窓口で、月間約1万件、約30名体制の現場です。
選定の決め手は4つ。カード番号などの個人情報を扱わないこと、着電量が多く効果が見えやすいこと、FAQで完結しやすいこと、そして自部門の権限が届きやすいことです。「小さく始める」進め方と、中小マーケットからエンタープライズへ実績を広げてきたIVRyの歩みが、伴走相手として合致したことも後押しになりました。
システムとビジネスが組み、現場で育てる
プロジェクトの核心は、システム部門とビジネス部門が同じ目線でタッグを組んだことにありました。「ビジネス側の単独進行では、うまくいかないことが多い」と福山さんは語ります。
現場での作り込みは岡田さんが牽引しました。100を超えるFAQを設計したうえで、デスクのメンバーに加盟店役を演じてもらい、実践的な架電テストを繰り返していきます。わざとゆっくり話す、あえて訛りを入れる、お客様の実際の言い回しをリアルに真似る。あらゆる状況を想定して検証を重ねた結果、テスト件数は最終的に約4,000件に達しました。

一方、セキュリティ面は寺澤さんがリードしました。マスキング機能を筆頭に、日本リージョンでのLLM処理、IP制御、入出力ログの取得といった高度な要件を提示。これに対し、パートナーであるIVRyが迅速な開発で応えていきました。
社内テストで認識率90%以上を確認し、まず加盟店デスクの呼量15%程度を占める札幌・福岡で先行リリース。本番では想定外の発話などもあり、振り分け率は当初69%に留まりましたが、岡田さんが文字起こしを読み込み、エンジニアに頼らず現場で一つずつチューニングを重ね、改善していきました。チューニングの過程では、さまざまな気づきを得ることができました。

「気づいたら現場で直す、直してまたお客様の発話での反応の確認をする、ダメだったらもう1回チューニングする、っていうことができたおかげで全国展開に至る前に、安定稼働できたんじゃないかな」と岡田さんは当時を振り返ります。
福山さんは「AIを入れて終わりじゃなくて、育てなきゃいけない。そこにビジネス側が覚悟を持って取り組めるか」と語ります。
また、AIソリューションの導入において論点となるセキュリティについて、寺澤さんは「リスクを評価する側の人間は、ただやりたい、で進めることはできない。どう安全に使っていくかブレーキの役割を果たさなければならない。何でもできる生成AIに何をさせないか?というようなことをきっちり決めて進めて行く。そういう合意形成の仕方が一つ大事なことなのだと思う」と述べます。

自動化率43%、月間約500時間を創出

図: お取り組みの結果(登壇資料より)
現場での育成の結果、人が介在せずAIが解決する割合は43%、完全に代替できる時間は月間約500時間が創出されました。
JCBは今後、会員側デスクやグループ会社への横展開と、データシェアリングというセキュアな仕組みを通して「IVRy Data Hub」を用いたVoC分析を構想しています。
「蓄積されるVoC全体の分析などを通して、お客様の満足度をあげていきたいという想いがある」と福山さんは未来を見据えます。
※記事内の登壇者およびアイブリーに関する情報は登壇時点のものです。