「おもてなしの宿に自動応答は合わない」は思い込みだった。小田急 山のホテルが応答率96%を実現した、AI時代の“人にしかできない接客”への回帰

箱根・芦ノ湖畔で78年の歴史を重ねる「小田急 山のホテル」。繁忙期には月6,000件超の電話が集中し、応答率は4割程度。つつじの開花状況のお問い合わせで、大切な宿泊予約の電話までつながらない状態でした。アイブリー導入とデータに基づく継続的な改善で応答率96%以上、繁忙期の自動化率54%を実現。現場主導のガイダンス更新やレストラン直通化で、スタッフを「人にしかできないおもてなし」へ集中させた老舗リ�ゾートホテルの改革を、支配人とフロント予約係のお二人に伺いました。

庭園のつつじの開花時期を迎えると、フロントの電話は鳴り止まなくなります。

箱根・芦ノ湖畔で78年の歴史を重ねる「小田急 山のホテル」では、繁忙期になると月間6,000件を超える電話が集中し、応答率が4割程度にとどまっていました。「お花の開花状況はどうですか?」といったお問い合わせが殺到する一方で、1年先の宿泊予約を目的とした大切な電話までもが、“話し中”の壁に阻まれていたのです。

この状況を変えたのが、対話AIプラットフォーム「アイブリー」の導入でした。データに基づく継続的な改善を重ねた結果、同ホテルの応答率は96%以上にまで向上。繁忙期には着信の半数超(自動化率約54%)を自動で受けつけることで、「電話がつながらない」という機会損失の解消に成功しました。

現場の力を“人にしかできないおもてなし”へと振り向け直した、老舗リゾートホテルの改革。本記事では、支配人の小山さんとフロント予約係の井上さんに、アイブリー導入の背景から具体的な活用法、そしてホテルにもたらされた効果や舞台裏について詳しく伺いました。

アイブリー導入の成果サマリー

  1. 「おもてなし」と「自動化」の両立による顧客体験(CX)の向上:常時話し中・応答率4割程度だった代表電話を改革し、応答率96.5%を達成。繁忙期には月6,000件超の着信を一次受付し、「大切な電話が繋がらない」機会損失を解消。「自動化は手抜きではなく、顧客体験の向上である」という視点と同業の導入実績が、老舗ホテルにおける稟議突破の決め手に。
  2. 単館・現場主導で完結する「生きた情報」のリアルタイム発信:IT専門部署がなくても、直感的な操作で現場のフロントスタッフ自身が即座にガイダンスを変更可能。花の開花状況など「ベンダーに修正依頼していては間に合わない鮮度の高い情報」も、その日のうちに現場の手で発信できる俊敏性(アジリティ)を実現。
  3. 人的リソースを「人にしかできない接客」へ再配分:繁忙期の自動化率54%を記録し、経営層に「人を一人雇う以上の費用対効果」を証明。予約係の残業を1日1〜2時間削減するとともに、データ分析に基づくレストラン直通化などで現場の取り次ぎ工数を削減。創出された時間を、目の前のお客様への接客に集中させている。
  4. 電話対応においてスタッフを守る「安心感」とEX向上:全通話の自動録音・文字起こしにより、長時間の電話対応や難しい要望に対して事実に基づいた対応が可能に。「システムが自分たちを守ってくれる」という安心感の醸成は、採用難時代における強力なスタッフ保護・定着率向上策として機能している。

小田急 山のホテルについて

小田急リゾーツが運営する「小田急 山のホテル」は、箱根・芦ノ湖畔に立つリゾートホテルです。前身は1911年(明治44年)に三菱4代目社長・岩﨑小彌太男爵が構えた約10万坪の別邸で、1948年に別邸の一部を「山のホテル」として開業。2026年で78年を数え、ロビーには男爵が版画家・川瀬巴水に依頼した作品が今も残るなど、財閥別邸時代の面影を随所に伝えています。

最大の名物は、男爵別邸時代から受け継がれてきた庭園です。つつじ84種・約3,000株が富士山と芦ノ湖を背景に咲き誇る景観は「春の箱根の象徴」として知られ、日本植物園協会の「ナショナルコレクション」認定も受けています。フランス料理「ヴェル・ボワ」や日本料理「つつじの茶屋」、宴会・婚礼も対応する、小田急リゾーツでも最大級の事業所です。

小田急 山のホテルの庭園。富士山に向かって駆け上がるように植えられたつつじ

主な客層は、毎月のように訪れる常連や、何十年も通い続けるリピーター。電話文化の色濃いホテルでもあります。

「旅先での人との接点は、すごく大事だと思っています。チェックインも顔を合わせて行い、お部屋まで荷物をお運びする。『ホテルの人とこんな話をしたよ』という体験を持ち帰っていただけたらと考えています」(小山さん)

「ほぼ、つつじのお問い合わせ」鳴り止まない電話と、電話対応の限界

山のホテルの電話課題は、20年来の構造的なものでした。

「20年前の入社当時、つつじの開花時期は電話が鳴り止まず、フロントだけでは対応しきれず、経理のスタッフまで電話を取るのが日常でした」(小山さん)。その後、スタッフの人員に合わせて回線数を整理しても、電話は取り切れません。

1年でもっとも電話が多くなる5月の繁忙期にはどんな電話が多いのか。お二人の答えは、口を揃えて「ほぼ、つつじの開花状況のお問い合わせ」でした。「つつじの開花時期は気温により毎年ずれます。お客様はその見頃をめがけていらっしゃる方が多いため、『お花はどう?』というお問い合わせのお電話を大変多くいただいています」(井上さん)。

開花のお問い合わせで電話が埋まれば、新規予約や「1年後のこの日を取りたい」という大切な電話まで話し中で弾かれてしまう。機会損失と業務負荷が同時に膨らむ構造でした。

おもてなしゆえの慎重さと、「顧客体験」を主語にした決断

転機は2025年。業務改善を担う立場で支配人に着任した小山さんが、最優先に据えたのが電話応対における接客の在り方でした。「電話の件数が多く、スタッフにとって一番の負担になっていました。ここを減らせれば、現場は劇的に楽になるはずだと考えました」(小山さん)。

小山さんがアイブリーを知ったのは、箱根の旅館・ホテル約100施設が集うコミュニティで、すでにアイブリーを利用している同業者から「電話はうちも大変だったからアイブリーを試しに入れてみたら、現場から好評で、もう手放せなくなった」と聞いたことがきっかけでした。「箱根エリアのベンチマークとなるような歴史あるホテル・旅館でも、すでにアイブリーを活用し成果を上げている」という事実が、経営層を含めた『老舗が自動音声を入れても大丈夫か』という不安を払拭する強力な材料となりました。

また、これまで「お客様には、人が直接お応えするのが一番」という「おもてなし」を大切に考え、電話応対の自動化には慎重に検討を重ねてきた経緯があります。「すぐに人が直接お応えすることができなくなりますが、自動音声が一次受付をすることで、話し中でつながらない割合を大きく下げることができます」。お客様の体験を改善することができるという思いで社内で提案をしました。

顧客体験の向上という視点が決め手となり、経営トップの承認を得て、紅葉シーズンを目前に短期間で導入を決断。2025年秋に本稼働を迎えました。決め手の一つは、案内を自分たちの手で即座に更新できることでした。

「大規模なコールセンターシステムを入れる予算やIT専任者がいなくても問題ありませんでした。アイブリーは直感的な操作が可能なため、現場のフロント係(井上さん)自身が、日々の業務の中で即座にガイダンスを修正できます。すぐ変更でき、すぐ確認できる。『音声案内の内容修正に1週間』では、その間に庭園のお花の見頃が過ぎてしまいますから」(小山さん)

三分咲きから五分咲きへ、その日のうちに。現場が自ら磨く分岐設計

分岐の設計は井上さんが中心となって担い、軸は一貫して「お客様が迷わないこと」。宿泊予約、レストラン、団体、スパ・婚礼、送迎バス、英語対応まで複合的な業務を網羅し、翌日以降のレストラン予約や送迎バスの場所案内はSMSでURLを送って完結させるなど、用件ごとに最適な導線を使い分けます。

真骨頂は、つつじシーズンの運用です。「つつじの時期は、冒頭の挨拶のすぐ後に開花状況の案内を置き、分岐に進む前にお電話が完結するようにしました。期間中は宿泊予約より先に、つつじの開花状況の案内を一番に。お客様が自動音声に不満を持たれないよう気をつけました。三分咲きと五分咲きの間は今年度は2日しかなかったため、状況が変わったと判断したら、すぐ案内を切り替えていました」(井上さん)

季節の移ろいがそのまま集客を左右するリゾートにとって、“生きた情報”を現場の手でその日のうちに届けられることは、何にも代えがたい価値です。外部に修正を依頼していては、見頃が過ぎてしまう。この現場主導の運用こそが、高い応答率と自動化率を支えています。

アイブリー活用イメージ

応答率4割台から9割台へ。「人を一人雇う以上の効果」

導入でまず明らかになったのは、想像を超える着信の実態でした。「管理画面を見て驚きました。これまでは常に話し中で全体像が見えませんでしたが、可視化されてみると体感以上に電話が来ていました。完全にキャパシティをオーバーしていたのです」(小山さん)。平常月でも月2,600〜4,500件、つつじとゴールデンウィーク、テレビ紹介が重なった2026年5月には月6,243件・ピーク時には1日約500件に達していました。

指標

導入前

導入後

電話の応答率

約44%(常時話し中)

約96%

繁忙期の自動化率

54%(2026年5月)

予約係の残業(繁忙期)

1日3〜4時間

1日1〜2時間削減

当日ランチのお問い合わせ

フロント経由で保留・折り返し

レストラン直通で即時回答

導入前は4割程度で「つながらない電話」が過半を占めていた応答率は、96%以上へと飛躍しました。「社内には『人を一人雇う以上の効果が出ています』と説明できるほどの効果でした」(小山さん)。本社からも「繁忙期に向けて準備していたので、導入して良かったね」と評価が届いています。

現場の働き方も変わりました。「以前は日中は電話対応に追われ、夕方やっと自分の業務に取り掛かることができる状態でした。簡単なお電話が自動で完結する分、日中から業務に取り掛かることができる。繁忙期に3〜4時間あった残業が、体感で1〜2時間は減りました」(井上さん)。つながるのは新規予約のような大切な電話が中心になり、「ずっと鳴り続ける」状態はほとんどなくなったといいます。

データが導いたレストラン直通化。フロントの“走り回り”が消えた

通話データの分析は、自動化にとどまらない業務再設計のきっかけにもなりました。「当日ランチのお問い合わせ」が想像以上に多いと判明したのです。従来はレストラン予約もフロントが受け、空席確認のたびに保留にしてレストランに電話をつないで確認、つながらなければ現地に走って往復し確認、お客様を長時間お待たせしていました。

そこでレストランへの直通番号を用意し、当日ランチは分岐から直接転送する設計に変更。「昼間の電話は本当に少なくなりました。レストランスタッフが直接お客様対応をし、空席状況もすぐに判断できるので、スムーズに対応できるようになりました」(小山さん)。

事実、導入直後に88.2%まで回復していた応答率は、この直通化などの運用改善を経て96.5%に到達しました(2026年1月の実績データ)。

長時間の難しい電話対応からスタッフを守る。全通話録音がもたらした「安心感」という名のEX改善

導入時には想定していなかった効果が、録音・文字起こしの価値でした。「電話が録音されているので、スタッフが守られている感覚があります」(小山さん)。ご要望が多岐にわたる難しい対応でも、過去のお電話をさかのぼって音声データと文字起こしされたデータから経緯を事実に基づいて把握でき、その後の対応に活かせます。住所や電話番号の聞き取りも後から確認でき、応対の正確性とスタッフの安心を同時に支えています。

採用難時代において、スタッフが安心して働ける環境(EX)を作ることは、経営の最重要課題の一つです。アイブリーはEX改善の一助にもなっていました。

今後について、小山さんは通話データのさらなる活用を挙げます。「分析を定期的に見られると、次の打ち手につながります。実際、ランチのお問い合わせが多いというデータが、直通化につながりました」(小山さん)。発話で用件を振り分ける「音声認識Q&A」など、声でのやり取りが自然なお客様に向けた機能にも関心を寄せています。

対面でのチェックイン、客室までの荷物のお運び、お客様との何げない会話。山のホテルが守り続けてきたのは、こうした「人と人との接点」です。定型的な電話を自動応答に託すことは、その接点を手放すことではなく、むしろスタッフを目の前のお客様へと向き合わせ、おもてなしの質を高める選択でした。大規模なコンタクトセンターを持たない一軒の老舗が、自分たちのペースで電話のあり方を見直したこの実践は、「人手をかけることが価値」とされてきた業界において、AIと人がそれぞれの強みを発揮する未来への、一つの確かな道筋を示しています。

※記事内のアイブリーに関する情報はインタビュー時点のものです。現在は異なる場合がありますので、予めご了承ください。

アイブリー

電話自動応答のアイブリー

ポイント1
電話業務を自動化
ポイント2
月額3,980円から最短5分ではじめられる
ポイント3
固定電話番号(市外局番)も手軽に取得