職員を「電話の取り次ぎ」から解放。300種類以上の多様な用件にAIが対応する桑名市役所の働き方改革

三重県の北部に位置する桑名市は、歴史ある町並みや「石取祭」、「なばなの里」などの観光資源、豊かな自然と伝統文化に恵まれたまちです。伊勢湾岸の玄関口として交通アクセスにも優れ、近年は住みやすさや発展性の観点からも注目を集めています。
このような桑名市では、「誰一人取り残さないデジタル社会の実現」を掲げ、「オンライン申請ポータルサイト」の整備や「書かないワンストップ窓口」の導入、メタバースを活用した市民サービスの実証など、先進的なDX施策を推進しています。2021年2月には「デジタルファースト宣言」を表明し、デジタル技術を活用した持続可能なまちづくりを目指しています。
こうした取り組みの一環として、桑名市役所では2025年に電話自動応答サービス「アイブリー」を導入しました。代表電話に寄せられる多岐にわたる問い合わせを、音声認識Q&A機能で自動的に適切な部署へ振り分けることで、総務課の電話対応業務を大幅に削減することに成功しています。
本記事では、桑名市役所 総務課の矢野 将太さんに、アイブリー導入の背景から具体的な活用法、そして職員の働きやすさ向上にもたらした効果について、詳しくお話を伺いました。
庁舎管理と選挙運営を担う総務課の役割
——まず、桑名市役所でのご自身の役割やミッションを教えてください。
矢野:総務課に所属し、主に庁舎の施設管理を担当しています。職員や利用者が不自由なく過ごせるよう、建物の維持管理を行うのが主な業務です。また、総務課は選挙管理委員会も兼務しており、選挙の運営にも携わっています。
私のミッションは、事故なく安全に庁舎を運営することです。修繕の発注や除草、漏電対応など、目立たない業務ではありますが、ほかの職員が働きやすい環境を整えることが、自分の重要な役割だと考えています。

——桑名市役所の特徴について教えてください。
矢野:桑名市は、昨年度に多度町・長島町との合併から20周年を迎えた市です。観光面では、「日本一やかましい祭り」と言われユネスコ無形文化遺産に登録されている「石取祭」や、映画・ドラマのロケ地としても知られる「六華苑」があります。また、木造と鉄骨のハイブリッドコースター「白鯨」のあるナガシマスパーランドやイルミネーションで有名な「なばなの里」なども人気です。
市政の方針として、「住みたい、住み続けたいと思えるよう、未来に向けて持続的に発展し、誰もが誇りを持って安心して暮らせる魅力に溢れたまち」を目指しています。市長も「時代の変化に対応した行政改革」を掲げ、人口減少社会を見据えたDX推進に注力して市政運営を行っているのが特徴です。

——DX推進について、これまで取り組まれてきたことを教えてください。
矢野:桑名市では「誰一人取り残さないデジタル社会の実現」を掲げ、さまざまなDX施策を推進しています。特に力を入れているのは、行政手続きのオンライン化と窓口業務の効率化です。
まず、「書かないワンストップ窓口」の導入を進めています。これは市民が各種申請や手続きをする際、従来のように書類に手書きする必要がなく、必要な情報があらかじめ電子的に取得・入力されるため、窓口での待ち時間と記入作業の大幅な削減を実現しています。さらに、複数の手続きを一度に済ませられるワンストップ対応もあわせて推進し、市民の利便性向上につなげています。
また、「オンライン申請ポータルサイト」の構築にも注力しています。これにより、市役所に来庁しなくても各種証明書の申請や手続きをインターネット上で完結できる環境を整備しました。例えばマイナンバーカードを活用した本人確認や、必要情報を自動連携する仕組みも取り入れており、市民は自宅から手軽に行政サービスを利用できるようになりました。
代表電話に集約される多岐にわたる問い合わせが課題に
——アイブリー導入前は、電話業務に関してどのような課題を抱えられていたのでしょうか。
矢野:総務課直通の番号もありますが、代表電話にかかってくる問い合わせの大半は、担当部署が分からないという理由で総務課にかけられており、総務課ではそれを各部署へ転送するという対応に追われていました。
アイブリー導入の数年前に、従来のボタン操作式IVR(自動音声応答)を導入し、総務課を含む6つの課へ振り分ける仕組みを作りました。それにより一定数は減ったものの、それでも総務課への転送業務は依然として多く、負担が減らないのが実情でした。

——どのようなお問い合わせが多いのでしょうか。
矢野:税や戸籍に関するものが特に多い傾向にありますが、総務課には担当部署がわからない電話がすべてつながる仕組みになっているため、結果として問い合わせ内容は極めて多岐にわたります。
ガイダンスの途中で番号が選択されなかった場合や、操作が分からずそのまま待機された場合は総務課につながる設定になっていたため、結果的に私たちが手動で振り分けることになっていました。
——電話業務はどのような体制で対応されていたのでしょうか。
矢野:総務課の職員全員で電話対応を行っています。しかし、私自身も含め、職員が市役所全ての業務を把握しているわけではありません。特に新しい事業などが始まると、どの部署が担当しているのか正確には分からないこともあります。
どのような問い合わせが来るか予測がつかない中で、担当部署が分からなければ公式サイトで調べ、適切な部署へ転送するという作業を、総務課の職員が総出で行っていたのです。
デジタル部門の提案でアイブリーと出会う
——導入を検討されたきっかけと、アイブリーを認知した経緯を教えてください。
矢野:現状の課題を庁内のデジタル部門に相談したのがきっかけです。デジタル部門が業務改善に積極的で、さまざまな事例やサービスを調査・リストアップしてくれました。その中にアイブリーがあり、各社のサービス内容や機能について話を聞いた上で、最終的にアイブリーの導入を決めました。
——導入の決め手となった点を教えてください。
矢野:市役所の業務では「後ほど折り返します」という対応が難しく、即座に担当部署へ転送しなければ「なぜ待たされるのか」といったクレームにつながりかねません。他社の自動応答サービスでは「用件を聞いて折り返す」という運用の提案が多かったのですが、アイブリーは音声で用件を認識して自動で転送してくれる機能があり、まさに私たちが求めていたものでした。
また、「市役所なら何でも知っているだろう」という前提でのお電話も多くいただきます。例えばパスポートの発行など、桑名市役所では取り扱っていない業務についての問い合わせもあります。
これまでは職員個人の経験に頼って案内していましたが、属人化して引き継ぎが難しく、異動してきたばかりの職員にとっては大きな負担になっていました。
アイブリーには、通話データからQ&Aを自動生成してくれる機能もあるため、私たちが想定していない問い合わせ内容も拾える可能性があるという点も、非常に魅力的だと感じました。

電話の取り次ぎ業務を75%削減
——アイブリーを導入したことによる効果はいかがですか。
矢野:私が総務課に来てからの体感ですが、以前は1日20件・5分から、長ければ10分ほどの電話対応をしていました。それが導入後は5件程度まで減少し、本来やるべき業務に集中できる時間が増え、業務効率が格段に向上したと感じています。
——アイブリーで特に価値を感じている点を教えてください。
矢野:やはり自動転送と音声案内機能ですね。電話対応が4分の1まで減ったことは劇的な変化で、職員の負担も大きく軽減されました。
問い合わせを音声で認識し、AIが⾃動応答できる「音声認識Q&A」機能を採用した結果、登録したQ&Aの数は300件以上となりました。これだけの多様な用件が自動で転送されるようになったことで、同じ説明を繰り返す手間もなくなり、非常に重宝しています。

職員の働きやすさと業務改善に大きく貢献
——職員の働きやすさや業務の質の改善には貢献できていますか。
矢野:はい、大きく貢献しています。以前は総務課の所管外の電話対応に多くの時間を取られていましたが、それが解消されたことで、本来の業務に集中できるようになり、大幅な業務改善につながりました。
——導入後、市民の方からの反応はいかがでしたか。
矢野:導入当初の2ヶ月ほどは、「なぜこのようなシステムを入れるのか」「外部委託で人に任せればいいのではないか」といった戸惑いの声もありました。デジタルに不慣れな方からは、「自分の言葉が正しく認識されない」といった意見や、「さっきAIに用件を伝えたのだから、そっちで確認してくれ」といったご指摘を受けることもありましたが、最近ではそうした声もほとんど聞かなくなり、システムが定着してきていると感じます。
——自治体にとってのアイブリーの有用性をどのように評価されていますか。
矢野:多くの自治体では職員数が削減される中で、少ない人数で多様な業務に対応しなければなりません。新入職員であっても電話に出れば「一人前の職員」として対応を求められますが、多岐にわたる業務の担当部署を正確に把握するのは容易ではありません。
アイブリーを導入することで、担当部署の案内ミスを減らし、職員の負担を軽減することができます。特に、総務課のように代表電話の取り次ぎを行っている部署にとっては、業務効率化の大きな助けになるはずです。問い合わせ内容が多岐にわたる自治体の業務において、アイブリーは非常に相性の良いソリューションだと思います。

電話業務をゼロに。公式サイトとの連携にも期待
——今後、電話業務の改善という点でどのような取り組みを行なっていきたいかお聞かせください。
矢野:総務課として一番目指したいのは、やはり「単なる取り次ぎ業務」をゼロにすることです。担当部署が分からず総務課にかかってくる電話を、AIが適切に案内し、職員が本来の業務に専念できる状態にしたいですね。
また、将来的な希望としては、市役所の公式サイトの情報とAIが連携し、自動的に適切な課へ転送してくれるようになれば嬉しいです。毎年4月の組織改編などで担当部署が変わる際も、公式サイトの情報を更新するだけで電話の転送先も自動で切り替われば、設定変更の手間や案内ミスを大幅に減らせると思います。
——最後に、同じように電話業務に課題を抱える自治体の方々にメッセージをお願いします。
矢野:総務課や税務課など、問い合わせの多い部署には特におすすめしたいです。電話交換手のような取り次ぎ業務から解放されるだけで、職員の負担は大きく変わります。
桑名市では、職員が業務改善に取り組む時間を確保するため、開庁時間の見直しなども行っています。電話対応にかかる時間を削減できれば、通常業務や業務改善により多くの時間を割くことができます。電話対応はゼロにはできませんが、アイブリーを導入することで「時間」を作り出し、その時間をより市民サービスの向上に集中できるというのは、自治体にとって非常に大きなメリットだと思います。
